吉次(越後屋)

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「彦六さん」 番頭の「彦六」に寄る。 「何だ、吉次」 「あいすみません。今日はこれにて友人の元へ参りとう御座いますが」 「わかった。」 本来なら、店子にこんな事は許されない。  ましてや越後屋の丁稚達からは影で「鬼六」とあだ名される程、厳しい彦六である。 他の店子がこんな事を言ったら、何と怒鳴られるか。 しかし、その彦六も吉次の申し出は無下にしない。 これには、理由がある。 吉次は「猫又」なのだ。 それも、只の猫又ではない。福を招く「招き猫又」なのである。 この越後屋がここまで繁盛しているのも、ひとえにこの吉次の力が大きいと言って過言ではない。 この事を、番頭彦六と店主 与右門だけが知っている。 「行くならば、どうせ飲むのだろう。勝手所にスルメがあるから、一つ持ってけ。貰いもんだ」 ありがとう御座います、そういって吉次はスルメを一枚頂戴すると、文次の棲む長屋へ向かった…
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