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それは酷く曖昧な記憶――
薄桃色の花弁が咲き乱れ、時は春。
粗末な絹の衣を着た人間が老いも若きも、男も女も、田畑を耕し、野山で採集をし、雨が降れば編み物をし、牛や馬を飼って生活していた。なぜかその目には、常に涙を溜めている。
ナゼナイテイル?
いつの時分だか、若い男に尋ねた事がある。
「我々は酷い重税をかけられている」
男はそう言って顔を伏せた。幼き頃の面影は消え、溌剌と生気に満ち溢れていたはずの男は、今や生に絶望していた。
「俺はもうダメかもしれない」
その声も枯れ果てた泉のように力無く、生命としての力を感じる事が出来なかった。
何故あんなにも毎日を楽しそうに生きていた男が、こんなにも変わってしまったのか? ワタシには分からなかった。ジュウゼイとは何だ?
3日後……男は首を吊っていた。
体は赤褐色に変色し、体の穴から出るものは全て出ていた。それは血であり、糞尿であり、吐捨物であり、涙だった。
そして最後の最後まで、その顔から絶望が消えることは無かった。
その死体と、散りゆく花びらは妙に似ている。そう思った。
男の周りにいた人間達は、憐れむような目をしながらも、どこか憎しみめいた表情をしていた。
「アイツの分の作業は誰がやれば良いんだ……」誰かかは分からない。だが誰かがそうボヤいたのが聞こえた。
花びらが全て散り、新緑の葉が繁茂した頃……ここには人間がいなくなった。
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