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それは、
きっと。
―帰ってきたら起こしてね
―ここにいるから
―ここで君を待ってるから
「ひっく、ぐす…っ」
「泣かないで、だいちゃん」
部屋に響くのはだいちゃんの泣き声だけ。
そのふるえる肩を抱こうとすると振り払われる俺の手は行き場を無くす。だいちゃんからの、はじめての拒絶だった。
「だいちゃん、どうしたの」
「ぐすっ…」
「どこか痛いの?なにか怖いの?」
うんともすんとも言ってくれないだいちゃんはただただ泣くだけ。
なにか言ってよ、俺は君が離れていくのが怖いのに。
もしもだいちゃんが俺と同じ気持ちで泣きたくなったのなら、俺はどれだけでもだいちゃんを抱きしめていてあげるのに。
あれ、だけどそう思ったら、俺のしていることは矛盾してるのだろうか。
「…っおれは、山田にとってどんな存在なの?」
「大切な存在だよ」
このときはじめて言葉を発しただいちゃんに答えると可愛い顔が歪む。
そんな顔すらも愛しいなんて。
「じゃあなんでおれだけをみてくれないの?」
「……、大丈夫、だいちゃんが泣きたくなったら俺が慰めてあげるから。辛くなった時だけ俺のところに帰ってこればいい。」
「…っじゃあ、おれが高木と付き合ってもいいわけ?」
「うん、しんどくなったらまた戻っておいでよ」
―空があまりに大きくて怖くなったら
―戻ってくればいいよ
―そんで泣けばいいよ
―僕が抱きしめるから
「そっか、そうだよね。やまだには知念や裕翔もいるもんね」
「だいちゃん?」
半ば諦めたようにだいちゃんは呟く。それに俺はたくさんの心当たりを自分の中でもみ消してだいちゃんに近づくと今度は拒絶さえもされなかった。
「知らない訳ないじゃん、どうせ色んな人におれと同じこと言ってんでしょ」
「なんのこと?俺はだいちゃんが一番だよ」
「適当なこと言わないで…っ。どうせおれも山田にとってはその他大勢の1人なんだ。」
あれ、おかしいな
いつもならこう言って抱きしめれば解決するのに
5回目になるといつものようにはいかないのかな
じゃあ、いったいどうすれば解決するの?
―これで5度目の別れ話です
―でも今回はどこか違うんです
―いつもの「忍法・記憶喪失」も
―何故か今回は効かないんです
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