5月14日(月) 朝

4/5
前へ
/240ページ
次へ
珍しく可愛いペットの愛嬌に見惚れてしまったと言わんばかりだ。 「こいつはどうかしら」 輝夜さんがバランを箸で寄せていく。 「どうやったらこれが食えるように見えるのか理解不能状態」 …まるで皆、今朝あった事なんてすっかり忘れてしまっているようだ。 でもそれが日常なんだから、皆慣れてしまっているんだろう。 ただ私一人は、彼女達とは価値観が違うようで、戸惑ってばかりいた。 幼い日、出会った時から皆はそんな風だったのに、何一つ変わっていない。 ただ、その戸惑いも、時間が経ってから思い返すと、自然に頬が緩む。 戸惑いながらも、楽しんでいる事を自覚する。 そして私は、また願う…。 こんな楽しい時間がいつまでも続きますように、と。 皆で一緒に登校。 とは言っても、学舎は寮と隣接しているので、鞄を持って渡り廊下を通るだけ。 それでも中庭の自然を見ながら皆と肩を並べて歩けるのは、心なしか気分が弾む貴重な時間だった。 「そう言えば、衣玖さんはどこまで行ってたのよ」 「あぁ、天界の龍神様のところへ、有り難いお言葉をご拝聴賜っていました」 「生まれた時から役職が決まってるなんて良いわね、適材適所ってやつ? うあー来年就職なんてイヤあぁぁぁー」 そんな事を言いながら輝夜さんは頭を抱える。 普段頭を使ってないからか、この時は特に苦しそうに生々しい仕草をしている。 「今のうちから絶望する事はありませんよ、輝夜さんもきっと好きな仕事に就けます。 けど、これから色々考えていかなくてはならない事はありますね」 なんとなく衣玖さんの"色々考える事"が気になり、私は輝夜さんの横から顔を出し、聞いてみる。 「人生設計? 早いですね」 「今だけしか出来ない事がある…という事ですよ」 「あぁ」 ふと、衣玖さんがこちらを振り返り見るので、それで察した。 私を見たのではなく、私の隣で首を傾げる天子を。 衣玖さんは龍神様の伝令役"竜宮の使い"として、これから免許取得に向けて進学するという話を聞いた。 名居様、つまり天子の両親から言い遣った、天子のお目付役としての任期も、多分それまでになるだろう。 「でも一年後には、私達も受験か、就職活動をやってる事になるんですよね」 ここは天子の頼もしい返事を期待して話を振るが、 「何か言う事はないか?」 …僅かな時間、皆が沈黙する。
/240ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加