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―――…。
…夢を見ていた。
顔を上げて黒板の上の時計に目を向けると、10時半を差していた。
もうじき休み時間のチャイムが鳴る、とりあえずそれまでに黒板に列記された要点を急いでノートへと移す。
何の夢を見ていたのか、既に頭の中からは飛んでしまっていた。
いつもの事だ。
意識を失うようにして、突然私が寝入ってしまう事は。
それは、幼い頃から抱えている病気…。
「ナルコレプシー」…つまり"眠り病"だ。
これは教師からも黙認されている。
この病気に対する理解は学校側にもあるし、それで私が成績を落とすような事もないからだ。
でも、今の状態には、少し違和感があった。
私が昼に見る夢は、決まって悪夢だ。
ふと思い出したように記憶の淵から現れ、現実の境界から離れた朧気な世界に私を閉じ込める。
目覚めの悪さは筆舌に尽くし難く、後で思い返そうとしても本当の白昼夢であったかのように、夢の情景は頭の中から消えている。
思い出そうとしても、思い出せない…そんな気がした。
果たして、私は夢を見ていたのだろうか?
「どったのよ、暗い顔しちゃって」
チャイムが鳴り、起立に始まり礼を交わして着席に終わる挨拶を済ませると、隣の席の輝夜さんが話し掛けてくる。
「別に何もないですよ」
「水臭いわねー、アニメの相談ならいつでも乗るわよ」
「それについては一生悩む事は無いですから」
書き終えたノートと教科書を積み上げ、縦に置いてトントンと慣らしながら、机に仕舞う。
すぐ黒板が消されるような事が無くて助かった。
「ねぇ、比那名居さん、知らない?」
と、クラスメートの女の子が私達に話し掛けてきた。
彼女の言う比那名居さんとは、天子の事である。
「ん、あー?」
輝夜さんが座ったまま、伸びをして天子の席を確かめてから、そこに居ないのなら知らない、と手を広げてみせた。
「日直なのに、黒板、消してないんだよねー」
「あぁー…」
その子は次の現国の係のようで、しきりに教室内を見回しながら愚痴を零した。
次のチャイムまでに日直が黒板を消せなかった場合、先生が教室に来るまでに急いで黒板を綺麗に整えるのは、彼女の仕事になるからだ。
そう言えば、さっきの休み時間は、饅頭を頭に乗せたままの天子が黒板を消していた事を思い出す。
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