5月14日(月) 昼

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―――…。 …夢を見ていた。 顔を上げて黒板の上の時計に目を向けると、10時半を差していた。 もうじき休み時間のチャイムが鳴る、とりあえずそれまでに黒板に列記された要点を急いでノートへと移す。 何の夢を見ていたのか、既に頭の中からは飛んでしまっていた。 いつもの事だ。 意識を失うようにして、突然私が寝入ってしまう事は。 それは、幼い頃から抱えている病気…。 「ナルコレプシー」…つまり"眠り病"だ。 これは教師からも黙認されている。 この病気に対する理解は学校側にもあるし、それで私が成績を落とすような事もないからだ。 でも、今の状態には、少し違和感があった。 私が昼に見る夢は、決まって悪夢だ。 ふと思い出したように記憶の淵から現れ、現実の境界から離れた朧気な世界に私を閉じ込める。 目覚めの悪さは筆舌に尽くし難く、後で思い返そうとしても本当の白昼夢であったかのように、夢の情景は頭の中から消えている。 思い出そうとしても、思い出せない…そんな気がした。 果たして、私は夢を見ていたのだろうか? 「どったのよ、暗い顔しちゃって」 チャイムが鳴り、起立に始まり礼を交わして着席に終わる挨拶を済ませると、隣の席の輝夜さんが話し掛けてくる。 「別に何もないですよ」 「水臭いわねー、アニメの相談ならいつでも乗るわよ」 「それについては一生悩む事は無いですから」 書き終えたノートと教科書を積み上げ、縦に置いてトントンと慣らしながら、机に仕舞う。 すぐ黒板が消されるような事が無くて助かった。 「ねぇ、比那名居さん、知らない?」 と、クラスメートの女の子が私達に話し掛けてきた。 彼女の言う比那名居さんとは、天子の事である。 「ん、あー?」 輝夜さんが座ったまま、伸びをして天子の席を確かめてから、そこに居ないのなら知らない、と手を広げてみせた。 「日直なのに、黒板、消してないんだよねー」 「あぁー…」 その子は次の現国の係のようで、しきりに教室内を見回しながら愚痴を零した。 次のチャイムまでに日直が黒板を消せなかった場合、先生が教室に来るまでに急いで黒板を綺麗に整えるのは、彼女の仕事になるからだ。 そう言えば、さっきの休み時間は、饅頭を頭に乗せたままの天子が黒板を消していた事を思い出す。
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