5月14日(月) 昼

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「サークルを立ち上げましょう! サークル名は…上海アリs」 「おいやめろ馬鹿」 私と輝夜さんで同時に口を塞いだ。 「待ちなさい、野球じゃなかったの…?」 「あら? そうでしたか? あぁー、そうですね、野球でした。今読んでた漫画が恋愛モノだったから、ドラマに感化されてしまいました」 「お前なんでもいいのか?」 「いえいえ、領主娘様さえやる気になって頂けたら、私はそれで構いませんよ」 そう言って天子の頭を撫でるが、天子はうっとうしいとばかりに顔をぶるぶる振るった。 この人こそ駄目な大人の見本だったようだ…。 「で、やっぱり妹紅さんはいませんでしたか」 「部活がありますからねー」 「まぁ、いいでしょう。そのうちあの子も分かってくれますから」 なにを? と目を見合わせて、妹紅さんの安否を心配する私達を残し、衣玖さんは廊下を歩いていく。 「さぁ、付いてらして下さい」 そう振り返りもせず、促した。 「イクテンのシンクノソラーに?」 「あっ、ちょ、お静かに!」 が、私が口にした言葉に足を止め、天を指差しながら"水得の龍魚"のスペルカードで鋭く踵を返し、その指先を私の口元に向けて迫ってくる。 「何を隠れて裏TELやってるんですかねぇ? 私に隠し事をしようという浅はかさは愚かしいわよ」 「違いますってば、部室ですよ、部室!」 赤面しながら慌てて誤魔化す衣玖さんと、まるで気付く様子のない天子。 これはこれで絵になっているかも知れない、と少しだけ思った。 私達は、野球部の部室にやってきていた。 衣玖さんは指先から発するエレキテルで電子ロックを解除すると、躊躇する事なく助走を付けての渾身のタックルを二回、そして足の裏を扉に付けて思いっ切り踏み込みながら蹴り開けた。 中はしばらく掃除していないのか、荒れ放題だった。 戸窓から差し込む夕陽を、おびただしい量の塵芥が反射しているのが視認出来る。 ロッカーの上や壁際に積まれて置かれた段ボールの一番上のフタが空いており、マッキーペンやスプレー缶などの雑貨品と巻き尺やヘルメットなどの野球用品が、ごっちゃになって机や床に散乱していた。 「ひどい有り様ですね…」 「一応二年の部員は何人か居たようですが、何やら不幸な事故があったようで、完全に野球部は壊滅してしまったらしいです」 「か、壊滅って?」
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