5月14日(月) 昼

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「空気を読むのはとても大切であり、これからの人生に欠かせない事です。 この流れを作り上げた、先人の思想を尊重すべきだとも考えてきました…。今までは」 こういう真剣な空気は私達リトルバスターズに似合わないものだったが、それでも衣玖さんが語って伝えたいと思う何かがあるのだろう。 私達も、そんな空気を察し、一心に衣玖さんの言葉に耳を傾けた。 「そこには自分自身というものがありません。主張、個性、そう呼べるモノです。 先人の教えを遵慮していれば、日常の繰り返しには対応出来るでしょう。しかし、そこには先人が敷いたレールの他に道がありません。 勿論その流れに沿った人生も悪くはないものです、しかし先に何が待つとも知れない獣道に到達する為の勢い…"可能性"と呼ぶべきものも、なかなか見えてはこないでしょう。 私達はまだスタート地点にも立っておらず、グラウンドにも入れて貰えないまま、観客席の巡回ルートを回っているだけなのです。 そうは思いませんか?」 「まぁ…なんとなくは分かるわね」 同意を求められ、眉間に皺を寄せながら相槌を打つ輝夜さん。 「ですから、私は私であり、私のままで新たな可能性に至る道、そして方法となる勢いの元を探し出すため―――」 再び視線が周囲を向く。 今度は少しの憂いも感じさせない、生き生きとした目線を投げかけた。 「―――野球をやる事にしました」 「ありゃ? 途中まで理解出来ていたつもりだったけど、最後の部分だけ分からなくなったような?」 「奇遇ね…、私も似たような感想よ…」 そんな衣玖さんの様子を前に、先程とは違った形の戸惑いを受ける一同。 「悪いけど、衣玖さん、最後の部分だけ、もっぺん言ってくんない?」 輝夜さんが聞き返す。 「私は私のままで、野球をやる事にしました」 「えーと…」 そのまま目頭を指で押さえてしばらく考え込む。 「そこでどうして野球が…?」 最大の謎を聞いた。 「考えてもみて下さい、就職活動中に野球をしようなんて、誰が考えます? 普通思わないでしょう?」 「まぁ、そりゃ…」 「でもそれって根本的な解決になってませんよね?」 「お前がそれを言ってやるな、むしろ私達が衣玖さんに言いたい事なんだから」 私の意見は、どうやら流れを承知しているらしい妹紅さんに制された。 言わないお約束という事を私は学習した。妹紅さんも、今はただ腕を組んで静観するばかり。
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