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「空気を読むのはとても大切であり、これからの人生に欠かせない事です。
この流れを作り上げた、先人の思想を尊重すべきだとも考えてきました…。今までは」
こういう真剣な空気は私達リトルバスターズに似合わないものだったが、それでも衣玖さんが語って伝えたいと思う何かがあるのだろう。
私達も、そんな空気を察し、一心に衣玖さんの言葉に耳を傾けた。
「そこには自分自身というものがありません。主張、個性、そう呼べるモノです。
先人の教えを遵慮していれば、日常の繰り返しには対応出来るでしょう。しかし、そこには先人が敷いたレールの他に道がありません。
勿論その流れに沿った人生も悪くはないものです、しかし先に何が待つとも知れない獣道に到達する為の勢い…"可能性"と呼ぶべきものも、なかなか見えてはこないでしょう。
私達はまだスタート地点にも立っておらず、グラウンドにも入れて貰えないまま、観客席の巡回ルートを回っているだけなのです。
そうは思いませんか?」
「まぁ…なんとなくは分かるわね」
同意を求められ、眉間に皺を寄せながら相槌を打つ輝夜さん。
「ですから、私は私であり、私のままで新たな可能性に至る道、そして方法となる勢いの元を探し出すため―――」
再び視線が周囲を向く。
今度は少しの憂いも感じさせない、生き生きとした目線を投げかけた。
「―――野球をやる事にしました」
「ありゃ? 途中まで理解出来ていたつもりだったけど、最後の部分だけ分からなくなったような?」
「奇遇ね…、私も似たような感想よ…」
そんな衣玖さんの様子を前に、先程とは違った形の戸惑いを受ける一同。
「悪いけど、衣玖さん、最後の部分だけ、もっぺん言ってくんない?」
輝夜さんが聞き返す。
「私は私のままで、野球をやる事にしました」
「えーと…」
そのまま目頭を指で押さえてしばらく考え込む。
「そこでどうして野球が…?」
最大の謎を聞いた。
「考えてもみて下さい、就職活動中に野球をしようなんて、誰が考えます?
普通思わないでしょう?」
「まぁ、そりゃ…」
「でもそれって根本的な解決になってませんよね?」
「お前がそれを言ってやるな、むしろ私達が衣玖さんに言いたい事なんだから」
私の意見は、どうやら流れを承知しているらしい妹紅さんに制された。
言わないお約束という事を私は学習した。妹紅さんも、今はただ腕を組んで静観するばかり。
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