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「しかも、人数を集めて。就職活動中でなくてもなかなかそんな気にはなれません。
なれますか?」
「まぁ、確定的に明らかよね」
「そうでしょうそうでしょう」
天子の返事に、衣玖さんはご満悦と言うように頬を綻ばせる。
「だからこそ、可能性を切り拓くのには野球こそ相応しいと考えます」
…なんだろう、この説得力は。
こうして私達は、衣玖さんに丸め込まれていくんだ…。
「だとしてもよ?」
そうはさせまいと輝夜さんが切り込む。
「それじゃ、私たちゃ単なる巻き添えなんだけど」
「いえ、貴方達にも同じく当てはまる事ですよ?
試験勉強や課題に追われる日々の中で、野球をしようなんて思いもしなかったはずです。
それは今さっき輝夜さんも同意したではありませんか」
「ちなみに証拠のログはちゃんと確保してあるわよこれで鍵屋は言い逃れは出来にい」
「誰が鍵屋だっての。分かってるわよ」
天子に証拠を突き付けられ、輝夜さんは渋々と意見を引っ込める。
「でもちょっと待ってよ、野球なら普通に体育の時間にやってんだけど…」
「授業のような主体性の無いものでやったとして、何の意味があります?
自らの意志で、投げて走って打ち歓喜する、その事に意味があるんです。
また、野球だけでなく、私達の活動として捉えた上で、メンバー探しも重要なファクターの一つです。
違いますか?」
…とうとう誰も何も言い返せなくなる。
ただ一人を除いては。
「私は…」
それまで足を組んでじっと押し黙っていた妹紅さんが、席を立つ。
「自らの意味で、剣を振るう事を選ぶよ。じゃあの」
そのまま背を向け、私達から離れるように食堂を出て行った。
「妹紅さんっ」
「放っておきなさい、早苗さん。あの子も理解してくれる日が来ます」
「いや、私達ですら全く理解しちゃいないんだけど」
「あらあら、そうでしたか」
口元を手で隠しながら笑ってはぐらかす衣玖さん。
そして眺めている私の視線に気付くと、横目にこちらを見る。
「早苗さんは?」
「………」
「早苗さんは?」
「えっ」
「早苗さんは?」
…三回連続でみつめてくるのは、卑怯だとしか言えないですよ…。
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