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向かって手前側は、先ほど部屋を出て行ったルームメイトである、蓬莱山輝夜(ほうらいざん・かぐや)さん。
奥側、輝夜さんと正面から対峙しているのは、白髪に多数のリボンを括り付け、上はシャツ、下はサスペンダーで止められたもんぺ姿の女性。名は、藤原妹紅(ふじわらのもこう)さん。
二人とも、私の幼馴染みである。昔から犬猿の中で、意見を違わせ、見栄を張り合って、大規模な喧嘩を繰り返してきている。
輝夜さんがゆらりと前に出る。
身体を捻り、右腕を隠すようにしながら五指の指先を真っ直ぐ伸ばし、それを斜めから振り被る。
と、妹紅さんはギリギリまで引き付けてグレイズした。
ばきぃぃっ! と、手刀を受けて背後の机がV字に折り曲がる。衝撃はパイプの骨組みにまで達し、机は内側に畳まれるようにバタンと崩れ落ちた。
「さすがだわ、姫様…」
「部活にも入らずバトルモノのアニメを研究した戦闘モーションを、ここぞとばかりに見せ付けているウサ…」
適当な解説が聞こえてくる。
拳を戻し切らぬ輝夜さんに対し、妹紅さんが肉迫する。
その手には、竹刀が握られている。と、一瞬のうちに妹紅さんの身体の後ろに振り払われ、遅れて風切り音が響く。
「うぁっ!?」
その一閃は竹刀によるものとは思えない鋭利な切れ味を誇っており、輝夜さんの首元を深く裂いた。
まるで消火器を噴射させたみたいに、天井に向けて鮮血が吹き上がる。
「ゲェーッ! あれが不死鳥スラッシュ!」
「CEROに真っ向から喧嘩を売る残虐ファイトだぁー!」
「手段を選ばず行くとは…まさに悪魔超人の所業! いいぞもっとやれ」
まるでプロレスの試合を見ているかのような生々しい視覚描写に、場は異様な盛り上がりを見せている。
「ちょっと、誰か止めて下さいよ!」
とても見ていられず、私は野次馬達に訴え掛ける。
「いいじゃないの、これからが本当の地獄さ」
とんでもない返答を聞くが、実際にこの二人の喧嘩は校内の見世物と化している。
周囲のギャラリーは二人の熱気に当てられ、食い入るように眺めていた。
「放っておいたら、まずいですって…。
何があったか分かりませんけど、今回の二人は本気っぽいし、もう怪我してるじゃないですか」
「蓬莱人同士なんだから、安心して見てられるってものでしょ。それとも貴方、止めてみる?」
「えっ」
突然此方に話を向けられ、思わず言葉に詰まる。
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