第一章 常識に囚われない仲間達

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「いや、まぁ、そうですよね…。常識的に考えて」 もっともな話だと思ったし、二人と親しい私が情に訴えるしか、止める術は無さそうである。 しかし、二人の睨み合うリーチ内に割って入り、私の存在を認知させるだけでも、もれなくピチューンする戦慄を感じ、怖じ気付く。 「神宝【ブリリアントドラゴンバレッタ】!」 「不死【徐福時空】!」 どちらともなく懐から取り出した、スペルカードまでも使ってしまう。 食堂内にけたたましい放出音が響き、色とりどりの光弾が変則的な軌道を描きながら両者を弾幕の渦中に呑み込むが、お互いに被弾しようが物ともせずに気合避けを続けている。 天井や二人の背後に流れ弾が飛び散り、むしろこれによってギャラリーや家具に被害が出た。さっきのビスビスという音は、弾幕が壁に撃ち込まれハチの巣と化している音だろう。 「…衣玖さんはっ!?」 辺りの惨状にいたたまれなくなり、私はついにその名を呼び掛ける。 そもそも二人が喧嘩をおっ始めたのは、衣玖さんが帰ってきたからだ。 「あぁ、衣玖さんなら、そこで満身創痍になってたわよ」 ギャラリーが横に避けて指差す先には、机の上で仰向けに突っ伏して寝息を立てている女の人の姿。 急いで駆け寄り肩を揺すると、ピクリと肩が反応し、背に掛けている羽衣が揺れる。 「あら…早苗さんですか。申し訳ありませんけど、充分な睡眠が取れていないか、または意識が声の届かないところにあります。後程お掛け直し下さい」 「いや、テレフォンサービスみたいな無機質な回答をしないで下さいよ」 豪華なフリルの付いた羽衣を背に巻いて、両端はぱっつんぱっつんの白シャツの袖元から垂れている。そして下は黒いロングスカートという姿の衣玖さんは、身体中にトゲトゲした植物の種や枯れ葉をくっつけ、スカートの裾や靴には泥を引っ掛けている。一体どこを歩いてきたのか。 でも今は、そんな些細な事はどうでもいいんだ。重要な事じゃない。 「衣玖さんが帰ってきたから、輝夜さんと妹紅さんが喧嘩を始めたんですよ! これ以上被害が出ないように見てあげて下さい、帰ってくるまでは二人とも我慢してましたから!」 それは私達がいくつか結んでいる約束の一つだ。衣玖さんがいない時に、本気のじゃれ合いは禁止。被害が拡大しないうちに、衣玖さんが仲裁に入れるようにである。
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