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それは周囲への配慮であり、大人な衣玖さんが仕切っているようにも見て取れた。
しかし、結局私達は衣玖さんのペースに呑まれたままだ。衣玖さんは望むままに周囲の空気を変え、その空気を読めない人が必ず割を食う。
衣玖さんが危惧した事が現実になるのか、あるいは彼女が空気の流れと先の展開を読んでいるのか。よくは分からないが、そういう理由から、私達は小さな頃からその関係を崩せず、今に至っていた。
「衣玖さーんっ」
私は懸命にその体を揺すり続けた。
「…分かりました」
衣玖さんは目の前の床を手で探り、黒い麦藁帽子を手繰り寄せると、頭の上に被り整えながら顔を上げた。
私を手で押しのけて、ゆらりと立ち上がる。
「では、ルールを設けましょう」
衣玖さんの一言が食堂に響くと、それまで阿鼻叫喚という状態だった食堂のざわめきが瞬時に収まっていく。
輝夜さんと妹紅さんがいち早く反応し、取っ組み合ったまま停止して衣玖さんに顔を向けたからだ。その視線に誘導され、ギャラリーの目線もすぐに集まっていく。
誰しもが衣玖さんの采配を待っていた。衣玖さんにかかれば、充分面白い見世物でさえももっと面白いものになるに違いないだろうから。
「スペルカードを使うと、流れ弾の被害が大き過ぎます。むしろ素手でも被害が出ていますからね、これは見過ごせません。なので…」
野次馬の中へ歩みを進めると人の波がバッと左右に分かれ、その中へと割って入り周囲を見回す。
「貴方達が、何でもいいので、武器になりそうなものを適当に投げ入れて差し上げなさい。
それはくだらないものほどよろしい」
そして、輝夜さんと妹紅さんに向き直り、指差す。
「その中から掴み取ったもの、それを武器にして戦いなさい。
それは素手でもなく、スペカでもありませんから、周囲に被害が出る事は無いでしょう」
その有無を言わせぬ空気に押され、誰しもが感心して頷いている。
「また、弾幕もギャラリーの皆さんが各自のスペカを使って撒いて下さい。
では…バトルスタート」
しばらく戸惑っていた野次馬達だったが、一人が何かを投げ入れると、それを合図にしたかのように活気付く。
やがて周囲にある色んなものが手当たり次第に輝夜さんと妹紅さんへ向けて投げ付けられた。
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