2月課題・【肉弾戦】

3/7
前へ
/11ページ
次へ
しかし、その興味無さげな態度が、Aの怒りを更に増幅させる。 実際、Dからすれば本気で興味が無いため、何を言われようとどうしようもないのだが…。 毎度毎度必死に挑み、そして見事散って行くAからすれば、悔しいことこの上ないのだろう。 そして遂には、 「なら今日、ここでテメエを倒してやるよ!!」 Aは地を蹴り、勢い良くDへと向かって走り出す。 突然切って落とされた戦いの幕に、Dは、 「はぁ~。まったく…猪みたいな人ですね、貴方は。」 深くため息をつくと、猪突猛進に突っ込んで来るAに対して構えを取る。 その構えは、凡そ自然体と言われるそれに近い。 両の腕はダラリと垂らし、体は右足を前にして軽く前傾している状態。とてもではないが、戦いに向いているとは思えない、そんな構え。 大体、体格の時点でDはAに圧倒的に敗北しているのだ。これでは、勝負は見えた様なものと言わざるを得ない。 しかし実は、一見戦いに向かないこの構えこそが、Dの強さの秘訣だったのだ。 10mの距離を僅か三歩で詰めるという驚異的な脚力を見せたAは、持った勢いそのままに、その太い右腕をD目掛けて振り抜く。 威力、スピード共に申し分ない一撃。 しかし、 「──ワンパターンですね、貴方も。」 誰が予想しただろうか。 Dは避けるでも無く、受け止めるでも無く、カウンターを入れるでも無く。 Aからの一撃を、"受け流した"のだ。 Aの拳に、自身の右掌を軽く触れさせる。その掌に感触を感じたと同時、右肩を後ろに引く事により衝撃を吸収。完全に相手の攻撃をいなして見せたのだ。 これは、思っている程簡単なことではない。 高い反射神経と柔軟な対応力、そして度胸。これらが揃って初めて使うことが出来る、新月流の奥義・『無月』。 これこそが、ひ弱なDが道場の跡継ぎの座まで登り詰めた所以だった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加