2月課題・【肉弾戦】

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Dの技は、受け流すだけでは終わらない。 加えてAの右腕に左手を添え、その左手で相手の腕を強く押す。 すると、どうだろうか。Dの受け流しによって重心を崩されていたAは、圧倒的に体格で勝っている筈のDの力により、地面へと叩き伏せられる。 攻防一体の、力に頼らない柔の型。これこそがDが使いこなす、『無月』だった。 一方のAも、流石は道場でDに次ぐ実力を持っているだけである。 地に叩き伏せられたものの、相手に隙を見せない。直ぐ様受け身を取り、距離を取って体制を立て直す。 「チッ…流石だな、このクソ野郎」 「言葉が悪いですよ、先輩」 悪態をつくAに対し、Dは未だ余裕の笑みを顔に浮かべる。 それに刺激されたのか。Aは舌打ちをすると、 「調子に乗ってんじゃねえぞ、この野郎が!!」 再度、D目掛けて走り出す。 が、あまりにも淡白。これでは先程の攻撃と何ら変わりがない。 そんなAの行動に対してため息をついたDは、 (次で終わらせる…) この一撃で相手を仕留めることを決意し、再び構えを取る。 しかし───。 「ッらあっ!!」 風を切るAの拳が、再度D目掛けて繰り出される。Dはもう一度その技を受け流そうと試みるが、その瞬間。 「───ッ!?」 ニヤリというAの笑み。そしてAは、その拳をDの手に触れる直前で"止めた"。 そう。属に言う『寸止め』という奴である。 技術的には、そう難易度が高そうには感じない技。しかしこのレベルの戦いにおける寸止めは、素人同士の喧嘩のそれとは異なる。立派な"武術"の一つなのだ。 Dは相手の技を受け流す時、相手の攻撃を自身の掌に当てて受け流すのだが、そのタイミングは相手の攻撃が自身に触れるか否かのギリギリのタイミング。つまりは、相手側はDの受け流しのタイミングを測れないのだ。 しかしAはそのタイミングを見極め、見事に寸止めを実行してみせた。それはつまり、Aの反射神経・センス。そして何より、実戦経験が。ずば抜けているということの証だった。
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