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「何を──!!…ッ!!」
普段ならば攻撃になど出ない筈のDから放たれた、渾身の右腕。
その一撃に意表を突かれたAだったが、そこは持ち前の運動能力で対応。
持って生まれた反射神経を生かし、遅れながらもDの一撃に反応。攻撃の為に振り上げていた右手を引き、空いていた左手でDの拳を掴もうと企む。
そして、その反応はドンピシャリ。遅れての反応だった筈なのに、Aは見事に対応してみせたのだった。
この時点で、Dの奇襲は失敗。その拳が届かないことは明白だった。
しかし、
「…掛かりましたね。」
Dの顔に浮かぶのは、不敵な笑みだった。
「何がだ──…ッ!!テメエまさか!!」
最初は何も気づかなかったAだった。
が、分かってしまったのだ。Dの本当の狙いに。そして自分が、まんまと罠にかかってしまったことに。
受け流しの真理とは、相手の攻撃の"ベクトルの向き"を変化させることにより、攻撃をいなすと共に相手の体勢を崩して致命的な隙を作り出すことにある。
さて、ここで考えてもらいたい。
防御の為に伸ばした、Aの左手。そこには、何が宿っているのかを。
そう。勿論答えは、"ベクトル"である。
つまるところ、そういうことなのだ。
Dにとっては、攻撃の為のベクトルも防御の為のベクトルも、同じ『無月』の対象に変わりはない。
つまりDは、
『防御の為に伸ばした左手のベクトルの向きを変化させることにより、受け流しを発生させること』
を目的に、普段は行わない攻撃を仕掛けたのだ。
しかし、気付いた所で時既に遅し。
防御の為に伸ばした左手は、攻撃をフェイントにしたDの掌に真っ直ぐに吸い込まれる様に進んで行く。
そして、Aが掌の感触を感じたその瞬間。
Dの『無月』により、左肩を前に出す様な形で体勢を崩される。最早Aに重心など存在しない。
あるのは、重力に従った自由落下のみ。
そして、
「これで───」
倒れ行くAの目にした貢献は、
「終わりだ!!!」
強く握られた、Dの左拳だった。
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