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私は今、病院の前にいる。
ある日。
私はこの病院で産まれた。
母は、私は元気のないまま産まれてきたと言っていた。
産まれてから、今もそのままだ。
友達などいなく、イジメられもせず、ただ孤独の人生を歩んできた。
両親は二年前に交通事故で亡くしている。
私はそれに、自分が恥ずかしい。
顔も、性格も存在すらも。
私はマスクに眼鏡をしている。
人一人に会うのすら、嫌だ。
今、私は人に会う。
恥ずかしがりやな私でも、会うことのできそうな人。
その人は、生きているのか死んでいるのかわからない人だ。
私と同じ日に、この同じ病院で産まれたらしい。
その彼は、産まれてから一度も目を開けていないらしい。
始め聞かされた時は驚いた。
居候させてもらっているおばちゃんが、「行ってきな」、と言ったから、しぶしぶ行くことになった。
私は看護師に場所を聞き、個室の前まで来た。
人目を避けながらここまできた。
思ったよりも時間がかかってしまっている。
ドアの前に来て、ふと私は止まった。
個室の名札を見る。
名前はすでに聞いている。
その名前は、人間ではなかった。
その名札と同じ名前。
それは。
「『ピース』」
そう私はマスクの中に埋もれているような口で呟いた。
「……」
私は異様に大きく感じるドアを、静かにスライドさせた。
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