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白亜の部屋の中、唯一の第二として存在している小さな椅子に、私は座る。
しばらく、私は彼の整った顔を見つめていた。
彼の両親は、この姿を見てこの彼から逃げてしまったらしい。
名前すらも決めないで。
母親のお腹の中でも異変があったらしい。
普通はお腹を蹴るような動作をするはずが、何もしなかったらしい。
「……でも、たったそれだけで逃げるなんで、世界は理不尽すぎるよ……」
自然と涙が出てしまう。
この世界の人口の中のミジンに一つの命が、捨てられたのだ。
そう思うと、この人は私よりも不幸な人なのかもしれない。
親すらいなく、笑うことも、泣くことも、私のように孤独の世界にたたずむことも。
この人にはできないのだ。
まるで、羽のない蝶々のように。
羽がなければ、美蝶のような美しさも、蛾(が)のような怖さも、そんな『有』などない、『無』なのだ。
白い個室という世界に、私はもう少しいることにした。
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