5人が本棚に入れています
本棚に追加
「どうにかって……診てあげて下さいよぉ。菊梨さん、獣医さんなんですから」
フライパンを振りながら、猫が甘えるような声で紗螺がねだる。
紗螺の言う通り、私は獣医だ。先程言っていた「後ろの者」達も、たくさんの患畜達である。
「獣医だからって、なんでもかんでも診ると思うな。俺は【動物】しか診ない」
「何でですか、列記とした動物じゃないですか」
私の辟易とした態度も気にかけず、紗螺はフライパンを降り続ける。
香ばしい匂いに釣られたのか、自分のハウスで眠っていた筈の私の愛犬、ラオが私に擦り寄って来た。
「あぁ、ラオ。私からは何も出んぞ。紗螺に行け、紗螺に」
軽く頭を撫でて促すと、賢いというか小賢しいというか、素直に紗螺の足元へ詰め寄る。
「もう、またはぐらかしてぇ。はーい、ラオちゃん。ご飯ですよ~」
ラオを利用して話を流したのがわかっているのか、いつも変わらない私の態度に呆れたのか、紗螺はフライパンを一時置き、ラオのフードを皿に盛る。
「そうですよ、先生~。いい加減逃げないで、ちゃんと診てくださいよ」
せっかくラオで解された私の精神が、一気に引き落とされる声が、私の背後から掛かった。
最初のコメントを投稿しよう!