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「……駄目だよ暦」
「姉さん……」
「そんな嬉しいことは絶対に言っちゃ駄目。 お姉ちゃん、泣いちゃうぞ?」
「でも、」
「いいの。 お姉ちゃんは、弟に心配されるほど弱くないぞ! ほら、今日はもう寝よう?」
「……うん」
姉さんは大人しく頷いた僕を満足げに眺めると、部屋の電気を消した。
真っ暗な部屋、二人で潜り込んだベッドの中で僕たちはどちらとともなく手を繋ぎ合せた。
じんわりと伝わる姉さんの熱。
暗闇に慣れない目では、姉さんの姿が見えず、静かな呼吸の音しか聞こえない。
でも、僕は驚くほどの安堵に包まれていた。
幼い頃から何も変わらない姉さんの存在に感謝して瞼を閉じて、今日という一日を振り返りながら眠りにつく。
「お休み姉さん」
「お休み可憐ちゃん」
姉弟の静かな夜はいつものように、温かいまま更けていく。
明日に控える惨事を知らずに。
暦が眠りについたのを確認してから真琴は声を押し殺したまま静かに嗚咽を漏らした。
「……ごめんね、暦。 姉ちゃんは本当に駄目だね。 絶対に、絶対に暦は私が幸せにするから……約束するからね?」
あどけない顔で眠る愛しの弟の隣で、誰よりも弟のことを想う姉は己の罪を嘆きながら、それでも弟の幸を願う。
いつか、弟の周りに大勢の友達ができることを。
そして、それを心から祝福できる自分になることを。
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