灰色な中学時代~序章~

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う~~ん、でも、いつまでもここで生まれたての小鹿みたいに震えている訳にはいかないよね? ……そうだよ、僕よりもきっと寺野先輩の方がずっと……もっと緊張している筈なんだ。 男の僕が、恥を忍んで勇気を振り絞ってくれた女の子に応えないでどうする!? 気合入れろよ僕!! よしっと、腹筋の力を込めて僕はなるべく静かに、でも、ちょっぴり力強く図書室の扉を開けた。 『――――――』 その空間は僕の緊張をより色濃くした。 ピンク色で緊張が滲むような甘い空間を想像していたけれど、夕暮れに染まる図書室は昨日となんら変わらずに無音の秩序を守り続けていた―――そして、秩序の番人であり、僕の憧れでもある彼女は例によって正面の受付の席に納まっていた。 「あ、あれ?」 正直、首を傾げにはいられなかった。 黒髪を二つ結いにしたおさげの彼女は今日も今日とて、分厚い小説を読みふけっている。 それこそ、図書室に入った僕のことなど気付いてもいないようだ。 え、え~と、これは想定外というか……僕の妄想の空回りというべきか……うぅ、恋愛経験がない分こういう時にどうすればいいのかわからないよぉ。 周囲を見渡しても助けてくれる人はいないし、ピンチにかけつけてくれる友達もいない。 姉さんに声をかければ、どこからでも参上するだろうけど、それは最終手段だから奥の手として取っておきたいところだ。
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