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と、とりあえず、寺野先輩に声をかけてみるべき……かな?
いつまでもキョロキョロと挙動不審な動きをしていても仕方ない。
今にも消えそうな勇気の火がかき消されないうちに僕は、緊張で右手と右足を同時に出しながら受付へと近づいた。
一歩進むごとに緊張で喉が急速に乾いていく。
一歩進むごとに寺野先輩の姿が明確になっていく。
受付に辿り着く頃には、僕の視界と思考は寺野先輩の注ぎ込まれていた。
ここまで彼女に近づいたのは初めてのこと。
初めてだからこそ、たくさんの情報が飛び込んでくる。
うわぁ、寺野先輩って……人形みたいだ。
同じ人間とは思えないほど、顔立ちは整い、まつ毛なんて驚くほど長く、マスカラやつけまつ毛なんて彼女には不要だろう。
鮮やかな夕日に照らしだされた彼女の肌は生まれたての子供のようにきめ細かく、つきたてのお餅のような弾力がありそうだ。
また、彼女の黒髪は近くで見ると、より一層闇を想像させるほどの深みを有していることに気付いた。
でも、畏敬の念を覚える暗さではない。
例えるなら……そう、この穏やかで、どこか寂しさも誘発する闇は夕日の情景に似ている。
触れたいけど、触れられない。
近いようで、とても遠い。
彼女の姿からはそんな感傷を呼び起こす。
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