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内気で、オタクで、身長も低く、友達もいないような男をイケメン勢をバッサバッサと切り捨てる寺野先輩が相手にしてくれるとは思えない。
これが僕の書いている小説の世界なら、実は相手も僕に好意を寄せているというベタな展開が用意されているのだろうけど…………現実はとても残酷だ。
僕が図書室から出ようとしても、彼女は現実そっちのけで本という名の物語に夢ちゅ――ん?
そこで、僕はいつもと彼女の様子が違うことに気づいた。
最初は読書をしているかと思ったのだが、彼女はどうやらノートに視線を落としているようだ。
何をしているのだろうかと考えたが、一つだけ思い当たる節があった。
そういえば寺野先輩は受験生か、そりゃ授業の復習くらいはするよね。
うんうん、と頷きながらも焦燥感に胸は焦がれていた。
そっか……あと半年もしたら寺野先輩は図書室からいなくなるのか……
夕日を背景にした彼女の姿はまもなく消えてしまう。
そうなれば、放課後の図書室に残るのは僕だけになる。
厳密には別の誰かが図書委員としてカウンター席に収まるだろうけど、そんなことに意味はない。
何も始まらない空間。
無秩序の中にある沈黙というルールだけが支配する穏やかでありながら残酷な世界。
友達を作りたいと願う一方で、いつまで経っても友達のできない僕を責めずに許してくれる唯一の甘い逃げ場所。
でも……僕も覚悟を決めなきゃいけないのかな?
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