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王都に到着した青年。
しかし魔王を倒し世界を平和に導いた勇者を迎えたのは、人々による歓迎の賛辞や祝宴などではなく―――
幾千幾万に及ぶ兵士達による包囲だった。
そしてその全ての兵士が弓や弩(ど)を青年に向けて構えていた。
青年は連行されるように王都の中央に聳え立つ城、その周りを囲む城壁をくぐってすぐにある、大きな庭の真ん中へと連れて来られた。
青年の目前には巨大な城が広がっており、その中央、城の中部バルコニーには3人の見覚えのある人達が立っていた。
この国の王とその妃、そして王女である。
王はバルコニーからゴミでも見るかのような視線を青年を向け、そして吐き捨てるように言い放った。
「この度の魔王討伐はご苦労であった。
そして早速で悪いんだが、君はもう用済みだ。平和な世界に君のような人外の存在はいらないのだ。
まぁ儂のせめてもの情けで、世間には君は魔王と引き分けた事にでもして讃えておくとしよう。
最後に、言い残す事でもあるか?」
国王のその無慈悲な言葉に対して、青年は―――
「平和な世を…。」
最後まで人々の平和を望んだ。
「そんな事、言われんでも分かっておるわい。
それじゃ―――
やれ。」
国王の号令と共に、全ての兵による矢が青年1人に対して放たれる。
死を受け入れ目を閉じる青年。
最後に見た光景は空を覆い隠す程の迫り来る黒い絨毯だった。
そして青年は最後まで抗うこともなく、その理不尽な短い人生の幕を閉じた。
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