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「お主が産まれた時から儂はお主の事を見ておった。
儂は人の世に直接手を出す事は出来ない、それをこれほどやるせなく思った事はなかったわい。
よくあんな苦痛しかない拷問のような生活で…こんなにも優しい子に育ってくれたもんじゃ。」
老人はそう言いながら青年の頭を優しく撫でた。
そして青年はと言うと、初めて人の暖かさを知ったせいか、それとも人の温もりを知ったせいか、はたまたその両方か…
その瞳から止め処なく涙を流しながら、気持ちよさそうにその身を委ねていた。
そして老人は更に話を続ける。
「儂はお主のような優しい子をこのまま黙って死なせる事は出来ない、イヤ、したくないのじゃ。
そこで…、ちょっと職権乱用になってしまうのじゃが、お主―――
他の世界で生きてみないか?」
予想外の発言、当然のように目を丸くして戸惑う青年。それを優しく見守り答えを待つ老人。
しかし青年の口から出てきた言葉は、老人の予想とは違ったものだった。
「俺はこのまま死んだ方がいい。
過ぎた力は恐怖しか生まない。
だから他の世界に行っても、俺は存在悪にしかならない…。」
無表情でそう言う青年の言葉に、老人はまたもや優しい笑みを浮かべて、青年に優しく言い聞かせるように喋り出した。
「確かにお主の力は普通の人々にとっては過ぎたる力じゃ…。
しかしな、そんな力も使い方によっては人々の希望にもなりえる。
そしてこれからお主に行ってもらおうと思ってる世界には、そんな希望を待ち望む人々が大勢いるのじゃ。
そこの世界なら、きっとお主の事を暖かく迎えてくれる筈。
どうじゃ?それでも生きたいとは思わないか?」
その言葉に青年は俯くが、しかし、その瞳からはまた溢れ出る涙が地面に滴り落ちていた。
「俺は…、俺は本当に生きて、いいのか?」
涙を流しながら顔を上げてそう言う青年に、老人は優しく微笑んで頷いた。
こうして青年の異世界への転生が決まった。
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