天使P

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そんなに花好きに会えたのが嬉しいんですかね。 「勿論です!男性で少ないじゃないですか。ロマンチストさんですか?」 …なんだろうかこの人は。 確か初対面だったと思うんだがな。 それにとてもロマンチストとはかけ離れた存在だと思うけど…。すこぶる現金な性格だけどもね。 「あ、ちょっと待ってて下さいね」 はい?はぁ…。 なぜか彼女はサンダルをパタパタいわせて店内に戻ると、華奢な腕で意外とテキパキ動き始めた。 そしてあっという間に戻ってきた彼女の手には、小さくて可愛らしい花束が入っていた。黄色い小さな花の中でカラフルな数本の花が輪を並べている。 確かに綺麗だけどさ…、残念ながら金欠ですよ? 「お持ちになって下さい」 これは、持ってみろ、って意味じゃないよな?貰っていいのかな? 「はい」 やたらキラキラした笑顔があった。 なんでこの人は店の損害になるような事を笑顔でやってのけるんだろうかね。俺には考えも及ばんね。 人生損するんじゃないの?この分働かなきゃならないんだよ? 「だって嬉しいじゃないですか。自分の好きな物を好きだって言ってくれる人が居たら」 …分からなくはない。 分からなくはないがそんな事を言っていたら商売にならないんじゃないの?花買いに来る人なんてみんな花好きなんじゃないのか? 「そうですね。だから私は商売に向いて居ないんです」 …言い切っちゃったよ。 そこまではっきり言われるとこっちも“そうですか”としか言いようが無いんだけど…。 この店一人でやってるのか?そこはかとなく不安を感じるんだか。 「はい」 やっぱり…。 「一昨日開店したばかりなんですがまだ誰もお客様はいらっしゃって無いんですよ」 …なぜ笑顔で言う。 というかこんな所じゃ当然でしょう。 誰もこの町で花を買おうとは思わないと思うぞ。サラリーマン地獄で花を求める人は居ないだろ。 「そうですか?でもあなたはいらっしゃったじゃないですか」 哀れみの眼差しを持ってね。 しかもそんな初めて来た人に花あげちゃダメでしょ。勿体無い。せっかくのビジネスチャンスを。 会話を遮るように、店の奥のレジで電話が鳴った。 すると彼女は謝ってから小走りにレジに入っていった。 俺の手には小さな花束が残っている。 …ただで貰うというのも如何なものかね。どこかに金を置いて長くなる前に帰ろうか…。
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