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「税務署?……いえ、登録した筈ですけど。……え?…でも、……はい。あ、いえ、分かります。え?…えっと…はぁ…」
…ん?
ポケットに手を入れた時に聞こえた対応に疑問を持って手を止めた。
おかしいな、その対応。
…というか、その電話。
寂しい財布は中身を出す事無く俺のポケットに戻った。
店内に入ると急に涼しくなって普通とは少し違う気のする蛍光灯の光が降ってきた。彼女は困った顔で電話に必死になっている。俺が入って来たことに気付いてもいない。
「…じゃあどうすればいいのでしょう?……はい。…はい、はい、分かります。えっと、今からですか?……はい、分かりました」
これはおかしい。色々と有り得ん。
「ちょいと失礼」
電話を取ったら女性は驚いた顔をした。
まぁ、当然か。確か初対面だった筈だからな。
でも無理に取り戻そうとはしないらしい。おっとりした人ですこと。
まぁ通報されないだけマシか。
…いや、なんで俺は通報されそうな事してんだろ?
まぁ…花貰ったし?
「…もしもし」
『あ、旦那様ですか。税務署の者ですが、お宅の店舗の登録が済まされておりませんよね?』
…旦那様…ね。なるほど。
「いえ、登録した筈ですけど?」
女性はなんでいきなり俺が出て来たのか分からずに不安そうにしている。どうせ税務署と聞いて自信が無くなったんだろ。
電話口の相手は理路整然と返答してきた。
『此方では登録不全という事になっております。登録費未納のようですね。全部で登録費と手数料、更に期限を過ぎて開業していらっしゃいますのでその期間分の追加となります。書類は頂いておりますので、あとは登録費のお支払いのみという事になります』
「なるほど」
……これは……だよな?
「それはおいくらほど掛かるでしょうか?」
『はい、先程もお申ししましたように登録費と手数料と追加税が掛かりますので、合計で13万5800円になります。手続きはお近くのATMでお出来になります。よろしければやり方をご説明致しますが』
…はぁ、なんだかな。
こんな暑い日に御苦労様です。俺はそこまで仕事熱心にはなれませんわい。
…というか、なんだろうな。
こっち側に立つとあんたがいかにもつまらなそうな人生送ってるように見えてきたよ。
俺の横で『あの…』とか『えっと…』とか零してるこの人の方がよっぽど積極的だ。
まぁ、言うことがあるとすれば、相手が悪かったな、位だな。
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