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「あー、説明はいいです。自分が赴きますから」
『え?あ、いえ、お近くのATMや銀行でもお振り込み頂けます。此方は只今立て込んでおりますので…』
さぁて、ぼろが出てきたぞ。下手くそめ。「そうですか。立て込んでいるのに説明して頂くなんて出来ません。どこに振り込めばいいか教えて頂ければ自分でしますので」
『そうですか……。もしよろしければお近くの銀行にお着きになってから再びお電話頂ければ…』
「そうですね。じゃあ電話番号を教えて頂ければ……はい、なるほど。分かりました。口座の方は?……えぇ、えぇ。分かりました」
あーあ、これだから。ま、いいけど。
…さて、銀行はまだ開いてるな。
知り合いのハッカーに暗証番号解かせるのと、向こうの凍結どっちが速いかな?
「あぁ、失礼。税務署の何様でしょうか?改めて掛けた時に困りますので教えて貰ってもよろしいですか?」
『私、鈴木と申します』
「なるほど鈴木さんですね。……ときに鈴木さん、ご存知ですか?犯罪者は法の下には居ないので何をされても文句は言えないんですよ?」
『は?え、えっとすみません。何の話でしょうか?』
戸惑った声に機転の低さを哀れにすら思った。
何も気付いてないのか。電話番号に口座番号、どうせ嘘だろうけど名前まで出したってのに。
「後々の為お勧めしますが、電話番号は個人の物にしない方が良いですよ?これ固定電話ですよね?番号から住所と名前出ちゃいますよ?あと口座番号は頂きましたから速めに凍結しないと取っちゃいますよ?ミイラさん?」
ガチャ。
あ、切れた。
さーて、あの素人はこれからどうするかね。まず下調べ位はするようになるかもな。
この家は一人暮らしだとか。
「あの…、税務署の方は何と?」
受話器を置くと不安気な顔が待っていた。
完全に忘れてた。これはこれで信じてるんだな。
…大丈夫かね、この人は。俺が電話取った事はもう気にしてないみたいだし。
「詐欺ですよ、あれ」
ピシッと音のしそうな動きで彼女はえらくショックな顔をした。
もうちょっと自分に自信を持ったらどうなんだろうか。手続きしたんなら、したと言い切りなさいよ。
「国家機関からのそういう知らせは文章で来るんですよ」
「…そうなんですか。どうもすいませんでした」
いやー、謝られましても。
電話泥棒と他人の営業妨害しただけなんですけどね。この小さすぎる店に関わる気なんて元々全く無かったでしたし。
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