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-桜坂市中央区・皆鶴邸-
―――息が上がったのは久しぶりだ。
左手に持つサバイバルナイフから、赤くて粘り気のある液体が滴り落ちる。
高鳴る鼓動がやけにやかましく頭に響く。
足元には一つの肉の塊が転がっているが、それはどうも人の形に見えてならない。
まるで腹を刺されてうずくまっていて、絶えず血を流している、そんな人間のように見える肉の塊だ。
しかもその肉は、いまなお内に魂を宿していた。
「……復讐した…っ…つもりか……」
その肉が話しかけてくる。
彼のトレードマークであったはずの束ねた長い襟足は、すでに血の湖に沈んでいた。
「……ああ、まあな」
「クソがぁ……ッ!! アンタの子供らを殺したのは俺じゃねぇ……」
「んなこたぁとうに知ってらぁ。お前を陥れたのは復讐の始まりにすぎねぇんだよカス」
だいぶ動悸も収まってきた。
死期が近いのか、逆に彼の表情はますます険しくなってゆく。
「“竜宮式”だ。皮肉なもんだぜ……子供達を殺した方法で復讐をするってのもよ」
「……何を酔って…ぐっ…やがる……」
「悪ぃが息子の居場所も分かってる。実の親であるお前よりも先にな」
「アイツに何を……!!??」
「ま、せいぜい俺が殺す以外の選択肢を選ぶよう祈っとくんだな。……上から見とけ。これを竜宮に迫る礎にしてやっからよ」
ナイフを投げ捨てる。
倒れている彼の目も虚ろだ、放っておけば自然に天からの迎えが来るだろう。
「猶予を与えてやっただけ悪い話じゃねぇ。20年前のあの日に殺してりゃ、テメェの命も息子の命も存在してなかったんだからな」
「…………」
「あばよ」
第一の宿敵。
小笠原伸二よ。
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