Prologue 01

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-桜坂市中央区・皆鶴邸- ―――息が上がったのは久しぶりだ。 左手に持つサバイバルナイフから、赤くて粘り気のある液体が滴り落ちる。 高鳴る鼓動がやけにやかましく頭に響く。 足元には一つの肉の塊が転がっているが、それはどうも人の形に見えてならない。 まるで腹を刺されてうずくまっていて、絶えず血を流している、そんな人間のように見える肉の塊だ。 しかもその肉は、いまなお内に魂を宿していた。 「……復讐した…っ…つもりか……」 その肉が話しかけてくる。 彼のトレードマークであったはずの束ねた長い襟足は、すでに血の湖に沈んでいた。 「……ああ、まあな」 「クソがぁ……ッ!! アンタの子供らを殺したのは俺じゃねぇ……」 「んなこたぁとうに知ってらぁ。お前を陥れたのは復讐の始まりにすぎねぇんだよカス」 だいぶ動悸も収まってきた。 死期が近いのか、逆に彼の表情はますます険しくなってゆく。 「“竜宮式”だ。皮肉なもんだぜ……子供達を殺した方法で復讐をするってのもよ」 「……何を酔って…ぐっ…やがる……」 「(わり)ぃが息子の居場所も分かってる。実の親であるお前よりも先にな」 「アイツに何を……!!??」 「ま、せいぜい俺が殺す以外の選択肢を選ぶよう祈っとくんだな。……上から見とけ。これを竜宮(タツミヤ)に迫る礎にしてやっからよ」 ナイフを投げ捨てる。 倒れている彼の目も虚ろだ、放っておけば自然に天からの迎えが来るだろう。 「猶予を与えてやっただけ悪い話じゃねぇ。20年前のあの日に殺してりゃ、テメェの命も息子の命も存在してなかったんだからな」 「…………」 「あばよ」 第一の宿敵。 小笠原伸二よ。  
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