0人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねぇ、ユンディルはどう思ってる?」
「何が?」
「戦争ー……」
種を蒔き終えて空になった器をひっくり返し、ジゼルはユンディルを見る。
「実感ないなぁ、戦争やってるなんて」
初春の風に、三つ編みにしたジゼルの茶髪が揺れる。
ユンディルはハンチング帽を被り直した。
「本当、実感ないよね。ランメルトは平和だ」
「でも、都の方では、男の子はみんな戦争に召集されてるって話でしょ?」
「らしいね」
ランメルトの人間にとって、情報源はラジオと新聞だけ。
そこから得られる情報は、やはり限られてくる。
「お姉ちゃーん」
幼い少女の声に、ジゼルは振り向いた。
畑の間の細い道を、ジゼルに似た茶髪の少女が駆けてくる。
「ヘレナ」
「お姉ちゃん、お母さんが、お使い行ってきてって」
ジゼルの妹、ヘレナ。
ジゼルとは十歳年が離れている。
「あ、ユンディルお兄ちゃん、おはようございます」
「おはよ、ヘレちゃん」
ヘレナはジゼルに、硬貨の入った巾着とメモを手渡した。
「ユンディル、付き合ってくれない?」
「もちろん」
ジゼルはスカートの土埃をはたいた。
最初のコメントを投稿しよう!