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その後は初心者向けの迂回コースを滑った。時折彼女を抜かすと、眼下の湖面をうっとりと眺めてるのが見えてホッとした。レッスン修了時間まで僅かになり、下のレストハウスまで一緒に一気に下りた。
「お疲れさまでした。これで本日のレッスンは終了になります」
「はい」
彼女はストックを雪面に刺し、ゼッケンを脱いだ。そして満面の笑みで、使命は果たしたと言わんばかりに俺にゼッケンを差し出した。
「じゃ、明日もここで」
「へ??」
鳩が豆鉄砲を食らった顔をするユキ。
「おい。携帯って今いくらすると思ってるんだよ」
あのフォームが気になる。その板を履くならもっと綺麗に滑らせたい、そう思った。
「あ、日帰りだった?」
「……いえ、連泊です」
「じゃあいいよね、青山ユキさん?」
またユキは驚いた顔をした。俺は腹を抱えて笑いたくなるのを必死に堪える。
「えっと、住所はさいたま市浦和区……」
そう言いながらポケットから紙切れを出した。スクール申込書の写し。
「電話番号は……あ、アドレスもご丁寧に。年齢は27歳」
「ちょ、ちょっとやめて!」
「今日のうちに申し込みしといて」
俺はユキが口を開けてポカンとしたのを見届けて、スクール小屋に戻った。
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