〇1〇

11/11
前へ
/353ページ
次へ
 その後は初心者向けの迂回コースを滑った。時折彼女を抜かすと、眼下の湖面をうっとりと眺めてるのが見えてホッとした。レッスン修了時間まで僅かになり、下のレストハウスまで一緒に一気に下りた。 「お疲れさまでした。これで本日のレッスンは終了になります」 「はい」  彼女はストックを雪面に刺し、ゼッケンを脱いだ。そして満面の笑みで、使命は果たしたと言わんばかりに俺にゼッケンを差し出した。 「じゃ、明日もここで」 「へ??」  鳩が豆鉄砲を食らった顔をするユキ。 「おい。携帯って今いくらすると思ってるんだよ」  あのフォームが気になる。その板を履くならもっと綺麗に滑らせたい、そう思った。 「あ、日帰りだった?」 「……いえ、連泊です」 「じゃあいいよね、青山ユキさん?」  またユキは驚いた顔をした。俺は腹を抱えて笑いたくなるのを必死に堪える。 「えっと、住所はさいたま市浦和区……」  そう言いながらポケットから紙切れを出した。スクール申込書の写し。 「電話番号は……あ、アドレスもご丁寧に。年齢は27歳」 「ちょ、ちょっとやめて!」 「今日のうちに申し込みしといて」  俺はユキが口を開けてポカンとしたのを見届けて、スクール小屋に戻った。 .
/353ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3234人が本棚に入れています
本棚に追加