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南東北にあるスキー場。俺はスキースクールのインストラクターをしていた。インストラクターって言えば体裁はいいが、暇な時にはホテルの雪掻きしたり皿洗いもする。一応正社員で採ってもらってはいるけど、ここはスキー場もホテルも同じ経営者だからあちこち人員の貸し出しもある。
俺はレストハウスに入りその子の跡をつける。このスキー場で一番大きいカフェテリア。彼女はカウンター席にグローブとゴーグルを置いて何かを注文しに行った。俺もすかさずカウンターに帽子とグローブを置き、コーヒーを買いに行く。彼女はトレーにパスタとチーズケーキを乗せて会計した。爪にはピンクのマニキュアに雪の結晶が浮かんでいた。俺も続いて会計する。
席に戻ると彼女は指先を広げて自分の手を見ていた。その爪。満足そうに眺めてニコニコしている。手の甲から眺めたり、手の平側にして指を折って眺めたり。女って好きだよな、ああいうの。こんな可愛い顔してこんな爪して、ニューモデルの板をどう滑りこなすのか想像もつかなかった。1本10万する板、ビンディングンを付けて15万を下らない。どうせ、どっかのお嬢様が興味本位で親に買ってもらったか……。
「きゃあっ」
突然、彼女が小さな悲鳴を上げた。
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