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翌朝、目覚ましが鳴ってもピクリともしない酒井を横目に除雪に行く。駐車場を除雪して、一度宿舎に帰り朝飯を食ってから赤いウェアに着替えてスクール小屋に向かう。朝会を済ます。今日は午前午後とも指名がある。去年も教えた女の子だ。名前だけで分かる。忘れもしない、去年の3月に俺の目の前で事故った家族だから。
10時になり、小屋から外に出る。
「熊倉菜々子ちゃーん、菜々子……お久しぶりっ、元気だったか?」
うん、ヤギせんせもお元気でしたか? と大人並に返す6歳。
「ちゃんと挨拶もできてお利口さんだね」
「せんせ、子供扱いしないでね。せんせも挨拶はちゃんとしてね?」
意味が分からず菜々子ちゃんを見ると、指でほっぺを差している。
「ここにご挨拶して?」
菜々子ちゃんの後ろにいるご両親は恥ずかしそうに笑い、頷いた。仕方なく菜々子ちゃんに寄り、ほっぺにキスをする。
「こんなご挨拶、誰に教わったの?」
「パパ。パパが朝起きると菜々子にそうするの。菜々子もチューしないとパパ泣いちゃうし」
菜々子もヤギせんせにチューする、と俺の頬にキスをする。父親は前に回り込むとシャッターチャンスとばかりにカメラのレンズを向けた。
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