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高台にあるこの位置からは、海が見える。
海風に誘われるようにそちらに目をやると、ちょうど、黄金色の夕日が水平線にゆっくりと沈んで行くのが見えた。
海まで金色に輝かせて、太陽が消える。
――俺の金も、消えた。
「俺の全財産…」
どこかで落としたんだろうか。
「腹減ったなー。とりあえず宿に帰るか」
ひとりごちながら立ち上がり、服についた砂を払って落とす。
首をコキッと鳴らして歩き出そうとした、その時だった。
「こんにちは、リサです」
どこから現れたのか目の前に少女が立ちふさがり、いきなり名乗ってきた。
「あん?」
「私、海賊なの。世界中の海を航海してお宝を強奪してるんだ!」
つぶらな茶色の目でじっと見つめられ、後ろに一歩退いた。
…海賊?
なるほど。確かにリサと名乗った少女は、海賊御用達の羽飾りの付いたつばの大きな帽子を被っている。
袖の膨らんだシャツの上にベストを着ていて、下はブーツ。
腰に巻かれた何だかわからない赤くて長い布が、風になびいてヒラヒラしていた。
海賊ごっこか?
「あー、もう暗くなるからよ。帰った方がいいぞ?」
昔よくやったなと思い出し、髪をかき上げながら苦笑すると、その子はにっこり笑う。
「あのね、明日の朝、港で海賊の認定試験があるんだ!」
「試験?」
「今、受験者を探してるとこなの。金髪で吊り目のオジサンもぜひ受けてね! バイバイ!」
少女は言うだけ言って走り去ってしまい、ひとり残された俺は、顎に手をやり考える。
海賊になるのに、試験があるのか?
と、言うか。
「俺はオジサンじゃねえぞ! まだ三十路前だーっ!!」
静まり返った宵闇の中、「ワンッ」と一声、犬だけが返事をしてくれた。
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