青年と少女

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と、当然のように自己紹介をして彼は嫌気がさした。命の恩人すら騙してしまうほど嘘をつくことが当たり前になってしまっている自分に、である。 シュバルツ、という名は彼の本名ではない。 シュバルツといえば超がみっつついても足りないくらい有名な勇者の名前である。 かつてこの世界【ルサルカ】の覇権争いをしていた2つの大国、【ヴァルナ帝国】と【ルドビィア王国】の戦いに巻き込まれた【ウルディナ王国】を救うために立ち上がった彼は剣を振るえば幾多の敵を切り裂き、魔法を放てば天を焦がすほどだった、という。 結果的にウルディナだけでなくほかの諸国をも救い、戦争を終結させた英雄としてあの大戦争【ミタノマキナ】が終わって7年たった今も彼の名はルサルカ中で知られている。 ちなみに彼は当時15,6歳だったそうだ。 ゆえに青年、本名をロシェルというこの男がシュバルツの名を騙ることにおいて年齢の面では問題ない。 しかし、彼ほどの有名人の名を騙ってバレずにすむ、ということが可能なのだろうか? その答えはNOである。 シュバルツ本人は現在消息不明になっており動向がつかめていない。 戦争に巻き込まれたウルディナにふらっとあらわれ、戦争の終結とともにバッタリと姿を消してしまったのである。 それが余計に彼を神格化する要因にもなっているのだが。 一方でこの状況がロシェルのように大量の偽者を生む原因にもなっていた。 本人が行方不明なのをいいことにシュバルツの名を騙るものが続出し、本人にそっくり(シュバルツ本人の容姿はあきらかになっていないため強さがそっくり、という意味である)な偽者が国を騙してその国をのっとり、独裁者になったなどという事件があったくらいである。 酷いところではシュバルツという名前を名づけたり名乗ったりした者を処罰する国もあるほどだった。 7年たった今でも彼の名を騙る者は減っていない。 今のルサルカでは法律で禁じられている国以外の地域ならばシュバルツを名乗るものが悪さをしない限り気にしない、というのが暗黙の了解になっている。 つまるところ、シュバルツと名乗る者の多くはワケありの人間であることが多い。 未だシュバルツを名乗るものが後を絶たないのはそれが理由だ。
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