青年と少女

4/5
前へ
/83ページ
次へ
ロシェルの場合、シュバルツの名を騙って悪さをすることが目的ではない。 彼にとってこの名はカモフラージュ、偽名なのである。 ロシェルはとある事情で本名を名乗ることができない。 そこでルサルカで暗黙の了解となっているこの行為に目をつけた。 シュバルツと名乗っておけばほとんどの人はあまり自分と関わろうとせずにほうっておいてくれるし、それ相応の働きをしていれば通常より優遇されたりすることもある。 とは言え、今この場でシュバルツと名乗ったのはさすがにまずかった。 自分を助けてくれた恩人にたいしてあからさまな偽名を名乗ってしまったようなものなのだから。 これはいくらなんでも失礼すぎるだろう。 リズにも悪い印象を与えてしまったに違いない。 いますぐでていけ!と言われても仕方のない状況だった、が 「シュバルツって・・・・・・・・えええええぇ?!ま、まさかご本人なのですかっ!?あああなたのような英雄をこんな汚い部屋に寝かせてしまうなんて・・・私がここで寝ればよかった・・・も、申し訳ありません!今すぐ別の部屋を用意します!」 (・・・・アレエ?コレハイッタイドウイウジョウキョウナノデセウ?) リズが急いでお掃除しなきゃ!などと叫びながら部屋を飛び出していった一方でロシェルは混乱していた。 ぶっちゃけ初めてだったのである。 自分が本物の勇者シュバルツだと信じられてしまったことが。 疑われるどころかニセモノだと断定されるのが当たり前なだけにこの状況にどう対処すべきなのか彼にはわからない。 悪さ目的にシュバルツを名乗る悪党であればこの状況は好都合なわけだがロシェルは違う。 つまりこれからの彼の行動はリズへ与える印象におおきく影響するのである。 例えば彼が実はニセモノです~などと言えば結局恩人に嘘をついたことがばれてしまうし、本物で通すにしてもニセモノであることがバレないとは言い切れない。 完全に八方塞がりだった。 全方位死角なし、である。 「あんまり関わらずに早めにここを離れるしか・・・ないよな。」 結局こんな結論に落ち着くしかなかった。 周囲に吹聴されて余計な噂が広がるのも厄介であるしこれが妥当な方針だろう、というのが彼の思考能力で算出できる最良の選択である。 まあ、元から長く留まるつもりなどなかったが恩返しぐらいはしようとおもっていただけに複雑な心境だった。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加