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目が覚めると彼はベッドの上にいた。
まだ意識がはっきりしていないのか、少しボケッとしているがそれなりに落ち着いた様子である。
まぁ、あたふたする体力すらないだけかもしれないが。
とにかく彼は周りを見渡して自分が置かれている状況の把握につとめた。
どうやらここは民家の一室らしい。
天井の形からして屋根裏部屋なのだろう。
あまり使われていないのか少しほこりっぽい。
タンスなどの家具はもはや笑うしかないほど豪快にほこりをかぶっていた。
部屋の中の空気が健康によろしくない状態だったので換気をするため窓へ手を伸ばした。
窓はガシャガシャと耳触りな音を立ててまるで開かれるのをこばんでいるようだったが、青年は窓の抵抗を力でねじ伏せた。
大きく開かれた窓から吹き込む涼しい風が部屋の空気を浄化していく。
一安心した彼はそのまま室内の観察を続け、自分のベッドのすぐ傍にある机の上に小さな水差しを見つけた。
「喉、乾いたな・・・。」
家主からの配慮だろうか。どうせなら部屋も掃除しておいてほしかったものだが助けてもらっておいてこんなことを思うのもためらわれたので考えないことにした。
とにかく水があるのはありがたい。青年は心中で礼を述べながら水差しを手にとり・・・そしてあることに気付いた。
「・・・コップがねえ。」
これは家主さんのうっかりなのだろうか。
それとも家主はコップを使わず水差しから直接水を飲むような豪快な人物なのだろうか。
だとすれば自分は水差しに直接口をつけてよいのだろうか。
いや、これが家主さんのうっかりだったとしたら・・・。
「・・・・はあ。」
彼はしばらく考えて、結局水差しを元の場所に戻した。
わからないもの、はっきりしないものには余計な手を出さない。
触らぬ神にたたりなし、である。
なにかが違うような気もするが。
おあずけという生殺しをくらった彼はとりあえず、喉の渇きを忘れるために再び窓の外に目を向けた。
窓から差し込む初春の暖かな光がしめっぽい屋根裏部屋を照らしていた。
「・・・・・・・・父さん母さん、俺は・・・・。」
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