38人が本棚に入れています
本棚に追加
空は今日も曇天に顔を染め今この瞬間にも雨が身体を打ち付ける。幸い今の彼にとって雨は、丁度都合の良いものだった。
黒いローブに付着した返り血を見事に雨が流してくれるのだ。辺り一面に群がる敵は、自分に勝算が無いのを知ってか知らぬか、今尚も攻撃の手を緩めずに斬りかかってくる。
彼は動じる事なく、しかるべき最善の一太刀で次々に斬り伏してゆく。彼が持つ剣が銀色に光る度に、断末魔の叫びと共に敵が崩れ去る
彼の栗色の髪がいつになく靡(なび)き、その間から垣間見える青い瞳は、確かに迫り来る敵を捉えていた
もう何分、何十分だろうか?斬っては返り血を浴び、雨が流しては次が来る。そんな機械的な動きをしていた彼だったが、次ぎに飛んで来た声に、我を取り戻す
「大丈夫かぁ?レイン。少し息が荒そうだぞ?」
同じく近い距離で戦っていた唯一の仲間、【セシル】が話しかけてきた
「あぁ、問題ない。そっちこそ大丈夫か、セシル」
普段は殆ど無口に近いレインだったが、今回だけは状況が状況だった。故に手短ではあるが、相棒に返事を返した
無論、その言葉に【感情】などと言うモノは含まれていない。決してセシルが嫌いな訳でもない。レインはそう言った【心】と言う物を最初から持ち合わせていなかった
そんなレインの機械的な反応など気にも止めず、場違いな明るい声でセシルは応えた
「心配無用!!って言いたい所だが、少し疲れてきた」
二人は自然と背中を合わせ、互いを支える。背中を任せるのと同時に少し休憩を含めた為だ。
二人相手では、敵も隙を見い出せず、ただ取り囲んで威圧するだけだった。だが二人が寄り添った所で戦況は変わらない。
敵が一気に斬りかかってくるのも時間の問題だろう。かくしてこの状況を一変させる術も無い。まさに絶対絶命だった
そんな状況に相応しくない陽気な声で、背中越しにセシルは言った。
「……なぁ?レイン」
レインは警戒しながら顔だけを背中に向けそれに応えた。視界の隅に見える彼の赤い長髪が鼻をくすぐり、レインは顔を左右に振った
「黒の幹部が雑魚如きに二人も揃って死ぬなんて……冗談きついよなぁ?」
「あぁ……そうだな」
「簡単には死ねないよなぁ?」
「………あぁ」
最初のコメントを投稿しよう!