闇に捧げる【鎮魂歌―Requiem】

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白は男が忌み嫌う色だ。自らの存在と相対する存在、光だ。そんな光景を目にし、男は不快を露わにする 「不愉快だ、彼に白など合わぬ。闇に生きてこそ、その存在を確立する我らにとっては更に無いに等しい……」 その言動にドアの両端に立つ兵士は、何食わぬ顔でこちらを見てきた。男が兵士に目を向けると有無を言わず喉を鳴らして目を逸らす。 兵士は分かっているのだ。この男は危険な香りがする。いつ何時、顔色一つ変えずに自分の命を狙うかも知れぬのだ。何せ被験体No.365を買い上げる位だ。何があっても不思議ではない 男は視線を、兵士からローブのポケットへ移し、中から契約の際に室長から与えられたカードを取り出した そのままドアの隣にある機械へと手を伸ばした時、両端に立っていた兵士の一人が上擦った声で言ってきた 「お客様、これより先は私達の監視外になります。何が起きても責任は取り兼ねますのでご了承下さい」 「………分かっている」 男はカードを上から下に引き下ろし解錠させた。同時にドアが開き、中にいたレインがこちらにゆっくりと振り向く 男は両隣で緊張した兵士など気にも止めずにレインの下へと歩き出した。レインの前で立ち止まると座ったレインに手を差し伸べた 真っ白な空間に全身黒尽くめの男は異様な程の存在感を醸し出し、それでいて動じる事はない。差し伸べられた手を凝視しながらもレインは微動だにしない 男はレインの両腕に先程まであった起爆装置が無くなっている事に気付いた。代わりにレインの腕にはかつてそこにあった装置が巻き付いた痣(あざ)が出来ていた そんなレインに微笑みかけ男は更に優しく言った
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