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「あなたですか?」
疑いながらも博雅は狐につぶやいた。
「ほかにいるか?」
そして驚くほど普通に返してきたそれは、まぎれもなく黄色い瞳を輝かせた目の前の狐。
ついに自分は頭がいかれたと思った博雅は、これはこれでいいかもしれない、と
素直に状況を認めることにしたのだった。
実際は頭のどこかで、これはただの狐で、例え声と狐の表情が一致していたとしてもただの偶然、空耳は自分の妄想である。とは考えていたのだが
平凡であった日常に少しでも刺激が入ることは、彼にとってはめずらしいことで、
少しばかり感覚が麻痺していた。
「本当にあなたが喋っているのですか?」
「だぁから、そうだっていってるだろうが。」
しかし、こうして返事が返ってくることに違和感が感じられなくて、
実際の、リアルな出来事なのかもしれないと、博雅は思った。
最近はデスクワークばかりで、滅多に誰かと会話できる環境を作り出せなかったので、
このイレギュラーな謎の相手にどう対応するのか考えることができずにいたため、
「・・・どうして喋れるのですか?」
と一番の疑問を口にするのに少し時間がかかってしまった。
狐はしばらくポカーンとしたあと、キャンッっと一声鳴いてから、
「んなこと知るか!俺だってびっくりしてんだよ。普通にも鳴けるのに、どうなってんだ?こりゃ・・・」
どうやら狐にもわからないことらしい。
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