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風呂から戻り、居間へ行くと紗智の姿が無かったので私の部屋へ行くと、ベッドに腰掛けて真剣に何かを見ている。
「紗智……?」
紗智の目には大粒の涙。
その手には私の『スケッチブック』があった。
私は咄嗟に紗智からそれを奪い取る。
「……見た?」
紗智は、泣きながら頷く。
「紗智、何泣いてんの!こんな落書き見られて泣きたいのはこっちの方だよ!!」
今度は、泣きながら首を振っている。
「感動してた。その神様の絵……とても素敵だから」
紗智が言っている『神様の絵』とは、私が中学生の時に描いた絵だ。
小さい頃から教えられた訳でもないのに絵を描いていた。
そんな私を母は、嬉しそうな、少し寂しそうな顔で見ていたのを覚えている。
その理由が解ったのは、小学校高学年の時。
母の洋服箪笥から出て来た一通の手紙。
真っ白な宛名のない封筒。
中には、一枚の便箋。
美しい字。
しかし青いインクで書かれたその内容は、とても衝撃的なものだった。
――今回の事を、秘密にしておいてくれて本当にありがとう。
君の事は、今でも愛している。
しかし、一緒になれないこの運命が僕は憎い。
君と奈央子を強く想いながら、僕は画家『菅原 直也』としてこれからも作品を生み出していく。
この次の新作は、君達へ贈るつもりだ。
それを最後に二度と君には逢わないと約束するよ。
君は優しいから、自分のせいだと思っているね。
そうじゃない。
誰のせいでもないんだよ。
今は、ただ、奈央子と君の幸せをずっとずっと願っている。
元気で……。
菅原 直也――
画家、菅原 直也。
その名を知らない者はいない。
『生と死 ―運命の橋―』
彼の代表作だ。
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