一枚の絵

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それを知った時、全身の力が抜け落ちた。 私が描いた『神様の絵』。 これは菅原直也が私と母に贈った物の模写だった。 題名のない『神様の絵』。 菅原直也が何故この『神様の絵』に題名を付けなかったのかは解らない。 しかし聖母の顔は私の母に少し似ていた。 天使の顔は私の赤ん坊の時の顔に似ている気がする。 私は自分が菅原直也の娘だと知り、中学で美術部に所属し、完璧に模写した絵を描きコンクールへ出品する事にした。 しかし、中学生が描けるレベルの絵じゃない、どの画家の作品を真似したんだと教師にすぐばれてしまい、それ以来絵を描くのは止めた。 コンクールにその絵を出品したかったのは、才能を試す為なんかじゃなく『お父さん』に私が娘だともしかしたら気付いてもらえるかもしれないなんて思っていた、そんな自分に嫌気がさしたから。 「神様の神々しい光が、聖母マリアと天使達に降り注ぐ……。見ていると自分まで神様の光に照らされているような不思議な気持ち。心が洗われるね」 紗智は、すっかり私が描いたと思い込んでいる。 涙まで流して。 父親の作品を、あたかも自分の物の様にしているのを我慢できなくなった私は、紗智に本当の事を打ち明けた。 「菅原直也って、あの菅原直也?!」 驚くのも無理はない。 私だって死ぬ程驚いたのだから。 「奈央!あんたって凄い子だったんだね!!」 「……誰にも言わないでね。血の繋がりは本物だけど私は生まれてから一度も会ったことないし、母親も菅原直也の話は一切しないから、もう縁切れてるみたいだしさ」 紗智は「うんうん」と頷いて嬉しそうにしていた。  
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