一枚の絵

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「ねぇ、奈央。今度、私の絵を描いてよ」 「……でももう絵は止めちゃったんだよ」 「どうして?勿体無いよ!こんなに上手いのに」 「それは模写、父親の真似なの」 「真似でも!こんなに伝わってくるよ!これは紛れもなく奈央の作品だよ!!」 真剣に私の描いた絵を見ながら紗智は言った。 そんな紗智に「それでも描きたくない」とはとても言えず「わかった。描きたくなったら紗智を描くよ」と安請け合いしてしまった。 どうせ、こんな約束。 すぐに忘れてしまうのだから。 その夜、私は中々眠れずにいた。 今日屋上から飛び降りようとした時の事から、こうやって紗智を泊めて自分のベッドへ寝かせている事全て振り返ってみると、今日あった出来事全てが全部夢なんじゃないか、そう思えてならなかった。 色々ありすぎて、精神的には疲れているのに体の方は眠らせてくれない。 眠ろうとすればする程、眠れなくなる。 睡眠薬を使おうか。 そう迷っていた時だった。 「奈央、もう寝た?」 とっくに寝たと思っていた紗智が話しかけてきた。 「……ううん。まだ、眠れなくて」 紗智は「私も」と笑った。 「一緒に寝ようか!」 「そんな……いいよ。子供じゃあるまいし」 いいからおいでよ、と紗智に引っ張られて紗智の横へ行った。 初めてだ。 母親以外の人と同じ布団に入ったのなんて。 紗智は私の手を握り、安心すると言った。 「ねぇ、紗智。何かあったの?」 紗智が子供の様に甘える言動は、何か一人では耐えられない辛い出来事があった為なんじゃないだろうかと思った。 「……うん。でも今は話せない。ごめんね。時期が来たら奈央にはちゃんと説明するから」 「いいよ。私で良ければいつでも相談してね。一人で思いつめるのはあんまり体に良くないよ」 紗智は「ありがとう。おやすみ」と言って微笑んで、静かに目を閉じた。 「おやすみ」 私も目を閉じる。 隣に人のぬくもりを感じ、私は久しぶりに良く眠れたのだった。  
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