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「奈央に会って欲しい人が居るんだ」
もう病室を出る準備をしている時に、紗智が言った。
私は、紗智以外の人にあまり関わりたくないな、と思いながらとりあえず「どんな人?」と聞く。
「ついてきて」
紗智は説明すらしてくれず、ただ私についてこいと言う。
私はどうやらこの病院の五階に居たようだ。
ナースステーションによった後エレベーターに乗る。
紗智は無言のまま、八階を押した。
「紗智……?」
押し間違えたのかな、と思い一階を押そうとしてその手を紗智に止められる。
そのまま八階に着き、慣れた様子で廊下を歩き一番奥の810号室と書かれた病室の前で止まった。
「ちょっとここで待っててね」
紗智はそう言って中へ入っていく。
私は訳がわからなくなっていた。
でも、この前紗智が何かを拭った様な痕をつけて家にやってきた時のことを思い出す。
制服も薬臭くて、紗智の様子も変だった。
その時のことは、この中の人に何かあった、と言うことなのだろうか。
ゆっくりと扉が開き、紗智が顔だけ出して「入って」と言った。
私は警戒しながらも、言われるままに中へ入る。
そこには、私が居た病室とは大違いな空間があった。
病室なのに、花屋の様に花が飾られている。
壁には見覚えのある絵画。
菅原直也の絵――。
彼の代表作のレプリカばかりある。
「雪夜。起き上がって大丈夫?」
そう言って紗智に抱き起こされた彼は、まるで透けて見えなくなってしまいそうなくらい白い体だった。
とても美しい、整った顔立ちをしている。
私を見るなり、にっこりと微笑んで「川原 雪夜です」と自己紹介してきた。
私も頭を下げて「駿河 奈央子です」と返した。
「君のことは紗智から聞いているよ。紗智と仲良くしてくれてありがとう」
まるで紗智の身内の様な台詞だが、彼は紗智の何なのだろう。
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