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「雪夜と私は、小さい頃からずっと一緒なの」
「紗智は僕の恋人……いや、それ以上に大切な人なんだ」
雪夜は、こっちが恥ずかしくなる様な台詞をさらっと言った。
紗智は恥ずかしそうに「やめてよ」と言っている。
「奈央ちゃん。今日初めて会った君にいきなりこんな話をするのもどうかと思ったんだけど、僕には時間がないんだ。だからどうか、気を悪くしないで聞いて欲しい」
そう言って少し苦しそうにしながら雪夜はベッドから降りた。
紗智も自然に彼の背中を支える。
「僕が菅原画伯のことを知ったのはまだ今よりずっと元気だった頃だ。彼の代表作、運命の橋。生も死も……全ての感情をも知りつくしている様な、神が描いた様な絵だと思った。それからずっと彼のファンでね。こうして毎日眺めているんだ」
私は、一瞬頭が真っ白になる。
どうして彼がそんな話を私に聞かせるのかわからなかったから。
「雪夜には、何でも話してしまうけど、奈央の父親の話はしてもいいのかどうか本当に迷った。きっと奈央は、菅原画伯の話、人にされたくないだろうし……。でも雪夜には本当に時間がなくて……。奈央に助けて欲しかった。だから、ごめんなさい」
紗智はそう言ってうつむいた。
私にはまだ、何が何だかわからない。
「君に、絵を描いて欲しい。この人の血を引く君に、僕と紗智を描いて欲しいんだ。お金は、ちゃんと出すから」
私は、迷っていた。
もう絵は二度と描きたくないと思っていたから。
でも断ったらいつも助けてくれる紗智を悲しませることになる。
「少し考えさせて。すぐには返事を出せない……」
雪夜は、少し残念そうな顔をして「わかったよ」と頷いた。
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