高峰―Takamine―

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雪夜の所へ行って絵の話をされてから一週間が経とうとしていた。 しかし私はまだ答えを出せていない。 あの状況……説明されなくても雪夜が病気でいつ死ぬかわからない体であることくらいわかった。 だからと言ってもうずっと絵を描いてないし、何を描いても菅原直也のようには絶対に描けない事くらいわかりきっている。 わかりきっているのに、私はまた絵を描かなきゃいけないのだろうか……。 でも雪夜だけの頼みでなく、紗智の望みでもある事だから、すぐには断れなかった。 紗智は嫌だったら断っていいんだよと言ってくれたけれど。 私を日頃助けてくれている紗智。 それなのに私は紗智に何もしてあげてない。 素直にお礼も言えてない。 私は決心した。 紗智の為に描こう、これを最後に本当に絵を描くのはやめよう。 私は勇気を出して紗智に初めて自分から電話をした。 3コール目で紗智が電話にでる。 『もしもし?奈央?』 「うん。紗智、あのね、絵の話だけど……描いてみようかなって思って」 少し間があった後、紗智が嬉しそうな声で『良かった』と呟く。 その声を聞いて完全に私の中の迷いは吹っ切れた。 そして明日、早速学校の帰りに紗智と雪夜のいる病院に行くことを約束した。 次の日、紗智と一緒に雪夜の病室へ向かうとそこには先客がいた。 紗智は知り合いなのか軽く頭を下げて「こんにちは」と挨拶する。 私もとりあえず一緒に挨拶した。 背が高くて色が白い。 スポーツなんか絶対にやってなさそうな細い体。 いわゆるもやしっこだ。 チャラチャラして髪も茶色い。 ピアスなんて何個も開けてる。 こんな人、雪夜とは全然接点が無さそうなのに。  
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