高峰―Takamine―

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私がその人をまじまじ見ていると雪夜が少し笑いながら「高峰、彼女が奈央ちゃんだよ」と彼に言った。 彼は私の方を見て、警戒した様子もなく「須藤高峰です。美大に通ってる、今二年」と名乗った。 私も「駿河奈央子です」と続けて名乗る。 「奈央ちゃんに話をする前に高峰にも絵を描いてもらってたんだ。今日出来上がって持ってきてくれたんだよ」 雪夜がそう言うと高峰は脇に抱えていた風呂敷包みを取り出して、雪夜のベッドの上で少し乱暴に開いた。 雪夜と紗智は嬉しそうに見入っている。 「良いね」 雪夜は一言呟いて高峰を見上げて笑った。 「奈央も見て、どう?」 紗智に言われて、その輪の中に入る。 とても彼が描いたとは思えないような繊細なタッチの絵。 「……すごい」 思わず呟いた。 彼は照れたように自分の頭を撫でる。 窓辺にもたれる紗智を見ながら、微笑む雪夜。 自然な笑顔。 幸せそうな二人の絵。 二人が彼を信頼しているからこそ見せた表情だろう。 こんな完璧な一枚の作品を見せつけられて私はまだ私が描く必要があるのかどうか疑問に思うほどだった。 雪夜は私が菅原直也の娘だと言うだけで興味があるから描いて欲しいだけなのではないだろうか。 「……やっぱり私」 断ろうとした時、紗智が私の肩を叩き「奈央の描く絵が見たい」と言った。 雪夜も頷いている。 「どうして?だってこんなすごい絵がもう手に入ったのに」 「僕達が欲しいのは思い出なんだ。絵を描いてもらったという、そこに確かに存在したと言う証が欲しい」 雪夜が言う、重みがある言葉。 「写真じゃだめなの?」 「写真はいつか色褪せてしまうだろ?でも絵になればいつでも壁に掛けておいてさ…。紗智に忘れられたくないんだ」 そんな雪夜の言葉に紗智は少し寂しそうに笑った。 そんなものがなくたって雪夜のことを忘れることなんて絶対ない、と言いたそうに。  
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