高峰―Takamine―

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「出来なんて雪夜はあまり気にしてないよ。大事なのは友達に絵を描いてもらうことだって言ってたから」 高峰には、そうかもしれない。 でも私には? 私には菅原直也の様な大作を期待しているのではないだろうか。 「奈央ちゃんにだって同じだろうよ。紗智に奈央ちゃんが描いた絵を一生の宝物として残せる、それが狙いだと思う」 「でも雪夜さんは菅原のファンだし。私は確かに血は繋がっているけど才能なんてないよ」 彼の望む様な作品は、とても描けそうにない。 そんなのは最初からわかりきっている。 「だからなんだよ。奈央ちゃんは奈央ちゃんの絵を描く。それだけだ。菅原画伯は関係ない」 高峰は力強く言う。 「きっと雪夜は紗智に奈央ちゃんの話を聞いて、奈央ちゃんが菅原画伯を乗り超えられる様にって、この話を考えたんだと思う」 「私に超えられると思うの?無理だよ」 知ってしまったあの日から付きまとう菅原直也という存在。 絶対に超えられない大きな存在。 「超えなくても彼に挑戦するんだ。描き終えた後に必ず自信になるから」 チンと音が鳴り、エレベーターが到着したことを告げる。 開いた空間に、高峰はゆっくりと乗り込んだ。 「絵の事で何か困ったら相談があったら乗るよ。雪夜に番号聞いて。じゃあね、奈央ちゃん」 引き留めたかったが、扉は閉まってしまった。 私は高峰が行ってしまったエレベーターの前でしばらく立ち尽くしていた。 雪夜の病室に戻ると、紗智と雪夜が手を繋ぎながら眠っていた。 二人の穏やかな寝顔。 その姿を見て、これだと思った。 死の狭間で揺れる、二人のささやかな休息。 このひとときの幸せ。 二人で過ごした、大切な時間。  
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