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私には父親がいない。
ずっと母親と二人で生きてきた。
今の母は、恋人の所に入り浸りで私の所には週に二度程しか顔を出さない。
それでも良かった。
母には母の人生がある。
好き勝手に生きればいい。
私に生活費を入れてくれて顔を出してくれるだけでも素晴らしいと思える。
世間から見れば、酷い母親かもしれないが……。
誰も居ない2LDKのオンボロアパートへ帰り、居間の明かりを付けた。
そして、いつもの鍵置き場に鍵を置く。
私が必ず見る場所に、母の置手紙。
――奈央、お帰りなさい。
夕飯食べて下さい。
あなたの好きな酢豚、作りました。
母より――
テーブルの上にはその酢豚の他にも沢山のおかずが並び、忙しい中時間を裂いて来てくれた母に、心の中で感謝した。
一緒には食べられなくても、コンビニ弁当やインスタント食品は子供に食べさせたくないと母はいつも言っている。
その為、いつでも冷凍庫には母が作ってくれた料理が沢山ストックしてあった。
電子レンジに母の作った料理を入れて温める。
今日のは作り過ぎだ、と思っていた矢先に携帯が鳴った。
携帯を手に取り、画面を見る。
――紗智だった。
私達は別れ際、親友の証に、と携帯番号を交換していた。
「もしもし?」
さっきまで一緒にいたのに、こうして機械越しに話をするのは、何だか照れ臭い気がする。
『奈央?紗智だよ。……御飯、食べた?』
「ううん、今からだよ」
『今、一人?』
「うん」
『一緒に御飯食べちゃ、駄目かな?』
紗智は、決して人に甘える様な事はしないタイプに見えたのに、私には甘えた様に話すのが何だか妙に可愛くて、部屋が片付いてもいないのに「いいよ」と咄嗟に言ってしまった。
十分くらいして、玄関のチャイムが鳴る。
ドアを開けると、制服のまま片手にコンビニの袋をぶら提げた紗智が居た。
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