夢と未来への奏で

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 持っている楽器の手入れの最終確認を自分の目ですませると、楽器を丁寧に黒いケースに入れて、昨日の長いようで短かった入学式のときしか着ていない新品の制服を身につけて家を出た。  外に出るとどこからか淡い桃色がかかった白い桜の花びらが舞い、柔らかく優しい春の息吹がそれを乗せて流し、頬を撫でて左目が隠れるほど伸びたビジリアン色の緑の前髪を揺らす。  純粋で明るい瞳はやや期待に満ちたように見え、なにかしら大きな夢を抱いているように見える。  新学期早々、そんな花びらを巻き上げる春風はどこか祝福してくれるような気がするのは気のせいか?  空は淡い青色をしていてちょうどよく雲があり、陽気なポカポカとする日差しはまだ寒さが残り、周りの空気や地上の全てを包み込むような暖かさだった。つまり、気持ち良すぎてかなり眠い。  少し前に買った青縁の白いヘッドホンを耳に、つい数日前に入れた最新の曲を聴きながら歩きだす。
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