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「あ、おかえり―」
「………は?」
あれ?
部屋間違えたのかな?
仕事を終えて、疲れた身体を引きずるようにしながら帰り着いた我が家
築五年のそのマンションは、セキュリティもある程度しっかりしているし、金額の割に間取りも広さも申し分なくて
唯一の難点は、仕事場からやや離れた場所にある故に、通勤が多少面倒なだけなんだけど
逆に、仕事とプライベ―トをきっちり分けたい自分にとっては、これくらいの距離はたいした問題じゃなくて
都会の喧騒から離れたこの静かな空気がとても気に入っている
……いや、今はそうゆうことを言ってる場合ではなくて
ここに住みはじめてから、この冬で二年目を迎えたわけで
その間に、彼女はおろか(今はいないけど)、友人すらも招いたことのないこの部屋に
どうしてなのか、知らない人間がいるではないか
(…俺の部屋…、だよな?)
ぐるりと部屋を見渡してみれば、見慣れた家具や、今朝干したままの自分のシャツや下着が確認できて
間違いなく、ここは自分の部屋であることを証明している
ただ、唯一の違和感は
呆然とリビングの入り口に立ち尽くしたままの俺のことなんか気にも止めず
テレビの前のソファ―にドッシリと腰を下ろし、おそらく勝手に冷蔵庫から取り出したであろう、常にストックしてある糖質ゼロの発泡酒片手に当然のようにくつろぎながらテレビを見ている
この男の存在だけだ
「…ここで何してんすか?」
恐る恐る問いかけながらも、微妙に敬語になってしまうのは
目の前のわけのわからない侵入者に対する、怯えと警戒心のせい
「ん―、テレビ見てるけど、あんまおもしれぇのやってねぇわ」
「…―ッ、そうじゃなく、て!」
そんなん見りゃわかるっつ―の!
なんでそんな当たり前のように答えちゃってるわけ!?
警戒しながらも、訝しげに視線を合わせて会話をしてみたけれど
やっぱり、俺の知ってる人間ではない
「とりあえず座れば?あ、ビ―ル飲む?」
「はあっ!?」
だから、お前はどこの誰なんだよ!?
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