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「………」
目の前にいるのは、明らかに正体不明な怪しい不法侵入者なんだけど
不自然さを通り越して、あまりに自然にこの空間に溶け込んでいて
本当なら、怒鳴りつけて大騒ぎして、すぐにこの部屋から追い出してやるべきなんだろうけれど
促されるままに、ソファ―の前に配置したテ―ブルの端の床に静かに腰を下ろして
このおかしな不法侵入者がまるで我が家のように振る舞いながら、冷蔵庫からビ―ルを取り出して差し出してきたもんだから
「…あ、…ありがとう…」
「どういたしまして―」
よく考えたら、このビ―ルは自分で買ってストックしているものであって
ここは、俺の部屋で
お礼を言う必要なんかまったくないはずなのに、無意識にこっちがもてなされている気分になってしまっていて
その間違いに気づいた瞬間、自分のあまりの間抜けさに、混乱と怒りが沸騰した
「…―つか、お前誰だよ!?なんでここにいんだよ!」
「や、なんかちょっと、休憩?」
「はあ!?つか、どうやって入った?鍵閉まってただろうが!泥棒!?」
「ん―…、まぁ、ちっちぇことは気にすんなって」
「…―はああ?」
「ま、とりあえず、飲もうぜ?」
「~~~ッ!」
「……な?」
「………、」
納得できる言葉なんて、ひとつもなくて
このわけのわからない奴に、言いたいことは死ぬほどたくさんあるけれど
真っ直ぐに見つめられながら、すべてをはぐらかすように薄く微笑んでビ―ルを手渡されて
その瞳には優しさを浮かべているけれど、有無を言わせない力強さも感じ取られて
瞬時に金縛りにあったように何も言えなくなってしまった俺は
渋々ビ―ルを受け取り、チラリと伺うように目線を送りながら
胸につっかえたままの様々な思いを、冷たいビ―ルでムリヤリ喉の奥に流し込んだ
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